ダンデライオン~春、キミに恋をする~
よく、見えないな……。
玄関にいる響の姿が、外から漏れる明かりに照らされて、淡く浮かび上がってる。
その向こう側に……誰かが……。
もっとよく見ようと、身を乗り出したその時だった。
「……、……」
話し声は聞こえない。
けど、一瞬大きく開いた玄関のドア。
その時まるで滑り込むように入ってきた人を、あたしは見逃さなかった。
……うそだ……
なんで?
「い……泉……、センセ?」
夜の闇に溶けちゃいそうな程、繊細で長い髪。
まるで巻きつくかのように、それは響にまとわりつく。
ドクンッ
ドクンッ
鈍くなる心音が、あの時の記憶を連れてくる。
それはまるで映画のように、あたしの目の前のスクリーンに流れ出す。
たくさんの窓ガラスから差し込む太陽の光
白く浮かび上がった教室
その中で異質な存在の、大きなグランドピアノ
そして
長い長い先生の艶やかな髪。
雪みたいに白いその腕が求めるのは、ふわふわの栗色の髪。
ドクン
ドクン
音がする。
警報が鳴ってる。
どうして?
どうしてあたし、忘れてたの?
あの時から、ずっと耳の奥の奥で鳴り続けていたその警報を。