ダンデライオン~春、キミに恋をする~
―――カタン!
「!」
ハッと振り向いた、ふたつの影。
あたしの足元に転がった、小さな小さな小箱。
響に渡すつもりだった、プレゼント……。
どうしよう……。
見てたの、バレちゃった……。
ドクン
「あ……」
震える唇からは、なにも出てきてくれない。
それどころか、頭の中も、何もかも真っ白だ。
オロオロと視線を上げると、目を見開いた泉ちゃん。
それは、あたしが初めて会った時の、あの泉ちゃんとリンクする。
そして、響は……。
「あの、あたし……今帰ろうと思ってて。
バスの時間もあるし。急いでたトコロで……。
だから、あの……」
「……、椎菜」
響に、名前、呼ばれた……。
たったそれだけで、胸がギュってなって。
身体全部が苦しくなって。
世界が、グラグラって滲むんだよ?
それは、あたしが響を好きだから。
響が、大好きだから……。
好きな人に名前呼んでもらえる事が、すごく嬉しいんだよ?
でも。
あたしを呼ぶその声色が、戸惑ってる。
泉先生に、響の心が乱れてる。
あたしはグイッと無理矢理口角をつり上げた。
それから「えへへ」って笑って見せる。
大丈夫。
あたし、大丈夫だからね。
鞄と上着を両手に抱えて、あたしはすっくと立ち上がった。