ダンデライオン~春、キミに恋をする~


止まっていた涙が、また溢れだした。

嫌でも蘇る、響と泉先生の姿。

夜の闇に溶けちゃいそうだった……先生の髪。


響のその大きくてあったかい腕は、ついさっきまであたしを抱きしめてくれてたのに。

目の前に現れたあの人が、いとも簡単にかっさらう。



止められない。

そんな事、あたしには出来なくて。

見ないフリして、蓋をしたの。

――――……自分から。






「椎菜……こんな時に言うなんてマジダサいけど」

「……」

「俺、まだ椎菜が好きだから」



え?


顔を上げた瞬間、濡れたままの頬に大野健吾の手が触れた。
ビクッと小さく身を引いたあたしを見て、大野健吾は眉を下げて切なそうに笑う。

そして遠慮がちに、でも流れ落ちる涙をひとつずつ拾っていく。




「俺は、自分の気持ちを押し殺すなんてマネしたくない」

「……でも」

「マッタもデモもなーし!
俺は自己中なんで!」



そう言って、スッと立ち上がると、あたしの手から冷えきった缶コーヒーを抜き取った。



「飲めねんなら正直に言いましょう」

「うっ」



フフンって感じでそれを顔の横まで持ち上げると、イジワルく目を細めて見せた。

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