ダンデライオン~春、キミに恋をする~
すぅぅ、はぁぁ。
小さく深呼吸して、古びたドアに手をかけた。
カラカラって音がして、スライドしていくドアの向こうをそっと覗く。
「……いないや」
ホッとため息をついて、誰もいない音楽室に足を踏み入れた。
泉先生がいるかもって、内心びくびくしてた。
でもそんなあたしの不安は空回り。
窓を閉め切った音楽室は、シンと静まり返っていた。
上履きの音が、やたら耳につく。
どこに置こうか迷いながら、とりあえず教卓の上にショウちゃんから預かっていた楽譜を置いた。
そこでふと顔を上げた。
誰もいない音楽室。
なのに、それは威圧的なくらいの存在感を放っている。
漆黒のグランドピアノ。
あたしはためらいながらそっとピアノに触れた。
ヒンヤリと冷たいそのピアノは、指紋ひとつなく、綺麗に磨き上げられていた。
「……」
スーッと手を滑らせたまま、ピアノにそって歩く。
泉ちゃんは、あの時どうして泣いてたのかな……。
鮮明に蘇る記憶に、耐え切れなくてあたしはキュッと目を閉じた。
―――その時だった。
となりにある準備室の扉が、あいたのは。