ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「間宮さん?」
ドクンってその声にあたしの心臓も体も飛び跳ねた。
ハッとして顔をあげると、不思議そうに目を見開いた泉先生がいて。
ピアノなんて触らずに、さっさと帰ってればよかったって、今更後悔。
「なにか用事?」
準備室の扉を開けたままだった泉先生は、そう言いながらパタンとしめた。
真っ黒で艶やかなストレートロングが、今日は横で結ばれてる。
後れ毛が色っぽい。
「あ、あの、ショウちゃ……いえ、村上先生に頼まれて」
チラリと教卓の上に置いてある楽譜を見る。
泉先生はそれに気づいて、なるほどと頷いた。
「ああ。そうなんだ。ありがとう」
「……」
うぅ
話す事ないよぉ
あたしと泉先生に、共通の話題ってないんだよね。
響のことも、イツキ先生のことも、あたしがきいてもいい事なんてないもん。
ここはさっさと帰ろ。
「――それじゃ、失礼します」
ペコリ頭を下げて、カバンを肩にかけたあたしを泉先生は引き止めた。
「ね、待って?」