ダンデライオン~春、キミに恋をする~
透明な声。
小鳥の囀りのようなその声は
この広い音楽室に吸い込まれてしまった。
あたしは魔法にかかったみたいに動けなくなって
引き寄せられるように振り返った。
「聞かないんだね。響君のこと」
優しく、優しく言ったその言葉に、戸惑った。
「……」
何も言わないあたしをただ黙って見つめる泉先生。
オレンジに染まる教室に、真っ白な肌が溶け合っていく。
今、先生は、1人の女として、あたしの前にいる。
そう思った。
「聞いてるのかな、私たちのこと」
「……はい」
頷いたあたし。
先生は、窓の外に視線を移した。
その横顔は、遠い昔を懐かしむような、そんな顔だった。
そして先生は、あの時のことを話をしてくれた。
当時大学生だった泉先生は、たしかにイツキ先生と付き合っていた。
同じ大学院だったんだって。
「私、ずるいの」
窓からあたしに視線を戻した泉先生は、自嘲気味に笑った。