ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「ほんとはね?心配してたんだ。
響君が急に家を出て、1人暮らし始めたって聞いたから。
ずっと罪悪感が合って、2年たってもそれはなくならなくて。
でも、この学校で久しぶりに会った彼は、まるで何もなかったみたいに、変わらなかった。
それに、あなたがいつもそばにいたでしょ? その時ふっと心のトゲが取れた気分だった」
『泉先生に、“彼女がいる”そう思わせればいい』ってそう言ってた響を思い出した。
響の想いは、ちゃんと先生を救ってたんだね。
「だから」
そこで先生はコトリと首をもたげてあたしを覗き込むようにみた。
その仕草にふいに胸がトクンとはねる。
「これからも彼をよろしくね?」
「え?」
「私はこの春にやめちゃうけど、あなたがいれば安心だな」
そう言って、楽譜を手に取ると、
花のように
春のように
ふわりと笑った泉先生。
胸が、ズキンって軋んだ。
涙が出そうだった。
だって、だって先生……違うよ。それ全然違う。
あたしは震える唇をキュッと噛み締めて、肩にかけていた鞄の紐を握りしめた。
「先生は……」
喉から出た言葉は、オレンジにそまる教室にかすんでいく。
「先生はズルいです……。
響の想いを全部もったまま、いなくなる……」
なに?って首を傾げた先生。
あたしはそんな先生にペコリと頭を下げて、教室を飛び出した。
オレンジに滲む教室の中に、あたしまで溶かされちゃいそうで。
先生の笑顔を、真っ直ぐ見れない自分がいて。
あたしは
逃げるように、走って 走って
とにかく 走った。