ダンデライオン~春、キミに恋をする~
それは、南校舎と東校舎を結ぶ渡り廊下。
中庭に面してるベンチのすぐそば。
「ごめん、先に帰ってて……」
呟くように言って、あたしは廊下を駆け出した。
「シィ?」って沙耶やゆっこたちの驚いた声が背中に届いたけど、あたしはそのまま走った。
階段を勢いよく駆け下りて、渡り廊下へ急ぐ。
廊下から外へ飛び出すと、階段に気付かずにつまづいた。
「わっ」
あ、危なかったぁ
おもいっきり転ぶとこだったぁ……
「間宮?」
はっ
そうだった!
前のめりだった体制を立て直すと、その声の主を見上げた。
「ショウちゃん……」
それに、隣で驚いたように瞬きを繰りかえす、泉先生……。
あたしの言葉に泉先生と同じように目を見開いていたショウちゃんは、ジトッと目を細めた。
「お前ね、何度言ったらわかんの。ショウちゃんではなく、」
「ベートーヴェン!」
「は?」
鞄の紐をギュッと握りしめたまま、あたしはそう叫んだ。
キョトンと首を傾げるショウちゃんを見て、それからあたしは泉先生に視線を移した。
「……ベートーヴェンの、ヒソウってどんな意味ですか?」
「悲愴?」
走ってきたから少しだけ息が上がってる。
あたしは、深く息をついてから、泉先生をまっすぐに見上げた。