ダンデライオン~春、キミに恋をする~


「……ただいまぁ」


家に帰ると、その日は誰もいなくて。



昼下がりのリビングは、大きな窓から春の日差しが差し込んでいて、光のカーテンがキラキラと粒子を飛ばしてるみたいだった。


鞄をソファに放り投げて、キッチンのテーブルを見ると、カレーライスと母から置手紙が。

《椎菜へ。 夕方には戻ります。温めて食べてね。洗濯物、よろしく》


そう言えば、朝あたしが歯を磨いてる時に学生時代の友達とランチに行くって言ってたっけ。


あたしはカレーを一気に平らげると、自分の部屋へ戻った。



ブレザーから携帯を取り出してチェックする。

ゆっこからメールが届いていた。


春休みになったらみんなでプチ旅行行こうって。

わぁ、楽しみだな……。

考えてみれば、みんなそろってどこかへ行くって事なかったかも。


明日学校に行けば、もう春休み。

短い春休みはきっとすぐに過ぎ去って、あっという間にあたし達は3年生になるんだろう。



メールの返信をして、携帯を机の上に置いた。


「……」



机の上には、七夕祭りの日に響に貰ったあの彦星が、窓から差し込む日差しに照らされて、静かに静かにそこにいた。

あの時から、何も変わっていないその姿に、胸の奥がキュッとなる。

そしてあたしは、彼の足元にずっとそのままにしてあった、小さな包み紙を手にした。


< 326 / 364 >

この作品をシェア

pagetop