ダンデライオン~春、キミに恋をする~
あったまきた!
あたしは踵をかえして、階段を駆け下りた。
「し~な~。しぃなってば」
と、またもからかうような声が振ってくる。
もぉ~いい加減に……
「S坂行ったよ」
え?
ピタッと足がとまり、そのまま振り返った。
階段の手すりに腕を乗せた大野健吾が、あたしを見下ろしながらにっこり笑った。
「俺、椎菜の困った顔、好きだったな」
「え?」
「最後に見てやろって思って。はは。ごめん、もぉ困らせないからさ~」
「……」
「つか留学する人にゃ敵わねぇよ。
あんたの気持ちは、一緒にどっか行っちゃうんだろ?」
え?
頬杖をついて、眉を下げて笑うその笑顔が、なぜか胸を締め付けた。
動き出せずに固まっていると、大野健吾がスッと体を起こした。
「ほら、行けよ! もうだいぶ前だから早くいかねぇと間に合わねーぞ」
「……大野健吾……」
「……あーあ。結局最後までフルネーム。
ま、もういいけど。んじゃね、セーンパイ☆」
そう言った大野健吾はヒラヒラと手を振って、そのまま階段の向こう側に見えなくなった。
知ってんだ……
響が留学するの……。
そう言えば、前に『時間ないのにいいの?』って言われた気がする。
あれは、そう言う意味だったんだ……。
ありがとう……。
……ありがとう、大野健吾。
いつも背中を押してくれて。
その太陽みたいな笑顔に、あたし何度も救われたよ?
スカートを握りしめたままだった手にキュッと力を込めて。
あたしは再び走り出した。