ダンデライオン~春、キミに恋をする~


夢じゃない。


「……椎菜」


小首を傾げて、まるであたしがここへ来ることをわかっていたみたいに笑う。

キャラメル色の髪が、ふわりと揺れた。




「なんで……」



ジッとあたしを見上げるその瞳の中に吸い込まれちゃいそうだ。

響は何かに気付いて、嬉しそうに目を細めた。



「……よかった。似合ってる」

「……」



それは響に貰ったヘアピンの事。

眉を下げて、無邪気にハハってはにかんだ響。


「短い前髪、かわいい」

「……なんでぇ?」



だけどあたしは素直にその言葉を受け取れず、とうとう我慢できずに溢れ出した涙。

ハラハラと頬を伝い、タンポポに泪の雨を降らす。


ゆるゆると響に側へ行くと、そのまま足元から崩れるように、ぺたんと座り込んだ。

立っていられなかった。


「なんでこんなとこにいるのぉ?

わけ、わかんな……。
い、イツキ先生の弟だしっ……泉先生とショウちゃん結婚するし……響、ふっフランス……っ行っちゃうんでしょ?」


溢れ出した想いは止まらない。
過ごした分の気持ち。彼を想う気持ちが次から次へとこぼれ落ちる。



「いなくなっちゃうんでしょ? 
ピアノ、知らなかった……あたし、何も知らなかったっ……、

なのに、なんでぇ?
なんでこんなとこで寝てるの?

うっ……うぅ」



響が今のあたしをどう思おうが、もうどうでもよくて。

子供みたいに泣きじゃくるあたしの言葉を、笑うでも、呆れるでもなく。

ただ、ジッと
真剣に聞いてくれていた。


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