ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「俺、もう逃げない。
今度は俺が……、俺が、椎菜を捕まえに行く。
もう、誰にも渡したくない」
スッとその手が頬に触れる。
心臓がドクドクいってて目眩がしそうだ。
ハラハラと零れ落ちる涙を、ひとつ残らず拾い集め響は小さく息を吸い込んだ。
「椎菜が 好きなんだ」
ためらいがちに頬に触れるその手が、耳に触れサラリと髪をすく。
響に触れられてそこからふにゃふにゃに溶けちゃいそう。
……でも。
「―――でも!」
にわかに近づいた距離にあたしはそう叫んだ。
あたしの髪をすくいあげていたその手がピクッと止まる。
「でもっ、響……月曜にはフランス行っちゃうんでしょ?」
そうだよ……。
ピアノに向き合うって決めたなら、フランス行き、決めたんだよね?
あたし……あたし……。
食い入るように響を見つめていると、驚いていたその表情がふっと和らいだ。
「留学はしない」
「え?」
「結構前に、もう断ってるよ。別にフランス行かなくてもこっちでだって、ピアノは出来る。
俺は全部手に入れる。 そーいうの、椎菜に教えられたからね」
そう言ってニヤリとした響。
え?