ダンデライオン~春、キミに恋をする~


「俺、もう逃げない。 
今度は俺が……、俺が、椎菜を捕まえに行く。
もう、誰にも渡したくない」


スッとその手が頬に触れる。
心臓がドクドクいってて目眩がしそうだ。

ハラハラと零れ落ちる涙を、ひとつ残らず拾い集め響は小さく息を吸い込んだ。



「椎菜が 好きなんだ」



ためらいがちに頬に触れるその手が、耳に触れサラリと髪をすく。

響に触れられてそこからふにゃふにゃに溶けちゃいそう。

……でも。


「―――でも!」


にわかに近づいた距離にあたしはそう叫んだ。
あたしの髪をすくいあげていたその手がピクッと止まる。



「でもっ、響……月曜にはフランス行っちゃうんでしょ?」


そうだよ……。

ピアノに向き合うって決めたなら、フランス行き、決めたんだよね?

あたし……あたし……。


食い入るように響を見つめていると、驚いていたその表情がふっと和らいだ。



「留学はしない」

「え?」

「結構前に、もう断ってるよ。別にフランス行かなくてもこっちでだって、ピアノは出来る。
俺は全部手に入れる。 そーいうの、椎菜に教えられたからね」


そう言ってニヤリとした響。


え?


< 355 / 364 >

この作品をシェア

pagetop