ダンデライオン~春、キミに恋をする~
不思議に思ったのも一瞬で、成田くんはその視線をあたしに落とした。
「……あれ」
「へっ?」
顎でなにかを指し示すと、片眉がビクリと動く。
慌ててその視線の先を追うと、そこには……。
音楽室のちょうど真ん前。
大きな桜の木が立ってる。
コソコソと……うんん、もうここまではっきりと聞こえてくる声。
「……ちょ、押さないでよ!」
「のん、声おっきいよ。 つか、見えない。 ゆっこもっと頭下げて」
「わっ、やめてってば……沙耶、声おっきい! バレちゃうって」
な、なにしてんだ?
見えるのは、その桜の木の下で、わが親友達がお互いの顔を見てなにやらもめていた。
「それにしても、いいなー……あんなかっこいい人とシィは密会なんて」
「……沙耶、なに言ってんの。 君は彼氏がいるでしょ」
「そーだよ。 ヤマト君今日も待ってるんでしょ?」
「そうだけどぉ~」
あたしがすぐそばに来てることにも気づかず、なんだか盛り上がっている。
「……そこで
なにしてんのかな?」
「きゃ!」
「わっ!」
「ひゃ!」
振り返った親友達が見たものは、真っ黒なオーラに包まれた世にも恐ろしいあたしだったに違いない。