ダンデライオン~春、キミに恋をする~

不思議に思ったのも一瞬で、成田くんはその視線をあたしに落とした。



「……あれ」

「へっ?」



顎でなにかを指し示すと、片眉がビクリと動く。

慌ててその視線の先を追うと、そこには……。



音楽室のちょうど真ん前。
大きな桜の木が立ってる。



コソコソと……うんん、もうここまではっきりと聞こえてくる声。



「……ちょ、押さないでよ!」

「のん、声おっきいよ。 つか、見えない。 ゆっこもっと頭下げて」

「わっ、やめてってば……沙耶、声おっきい! バレちゃうって」




な、なにしてんだ?

見えるのは、その桜の木の下で、わが親友達がお互いの顔を見てなにやらもめていた。



「それにしても、いいなー……あんなかっこいい人とシィは密会なんて」

「……沙耶、なに言ってんの。 君は彼氏がいるでしょ」

「そーだよ。 ヤマト君今日も待ってるんでしょ?」

「そうだけどぉ~」



あたしがすぐそばに来てることにも気づかず、なんだか盛り上がっている。



「……そこで
なにしてんのかな?」




「きゃ!」
「わっ!」
「ひゃ!」





振り返った親友達が見たものは、真っ黒なオーラに包まれた世にも恐ろしいあたしだったに違いない。



< 38 / 364 >

この作品をシェア

pagetop