ダンデライオン~春、キミに恋をする~
・音楽室の誘惑
その日もあたしは、朝から花壇の花に水やりをしていた。
ショウちゃんに、この中庭の掃除を任されてから1週間。
「またおっきくなってる」
美味しいお水をもらうから、チューリップやパンジーだけじゃなく。
周りの雑草たちもスクスク育ってる。
なんだかかわいそうで、「抜いちゃえ」と言ったショウちゃんの言葉をはねのけて、そのまんまにしてあるから伸び放題だ。
昨日、あたしの様子を見に来たショウちゃんも呆れながら目を細めると。
「だから、俺が言ったろ。 それ以上大きくなると草取り大変だぞ」
そう言って、別に手伝うわけでもなく。
水を浴びてキラキラ光ってる草花をぼんやりと見てたっけ。
でも、ほら……。
雑草と呼ばれるこのタンポポだって、こんなに綺麗に咲いてるのに。
これをとっちゃうなんて、絶対にかわいそうだよね?
あたしは、ジョウロを地面に置くと腰を落とした。
踏まれても踏まれても
ちっともめげないタンポポ。
本当に、すごい。
黄色い花にそっと触れる。
「……」
成田くんも毎日、ここに来てる。
来てる……んだけど、言われてる水やりをするわけでもなく。
あたしと話をするわけでもなく。
『おはよ』
って、寝癖のついた髪をふわふわさせて。
ふわあああってあくびをすると
大抵あのベンチに寝転んで、気持ち良さそうに目を閉じるんだ。
まったく。
ショウちゃんも成田くんも、あたしにばっかりやらせて。
……て。
朝のそんなふたりきりの時間が好きだったりして。