ダンデライオン~春、キミに恋をする~
教室の中、大きなグランドピアノの前に泉先生がいた。
窓から朝日を浴びて、真っ黒な髪がキラキラ光ってて。
雪みたいに白いその肌が、陽射しを受けて、溶けてしまいそうだと思った。
でも……、
「……なんで……」
先生の視線の先。
ピアノのイスになんの違和感もなく座る、男子生徒がいる。
成田響。
なんで?
成田君が、音楽室なんかに。
ピアノを挟んで、穏やかに微笑むのは泉先生だ。
どこか余裕のある、甘美で艶やかな微笑み。
成田くんって部活とかやってたかな。
吹奏楽?
知らなかった……。
息をのんで見つめていると、不意に泉先生が振り返った。
「……ッ……」
弾かれるように、あたしは音楽室のドアから離れる。
そして、そのままくるりと向きを変えて
気づいた時には、全速力で駆け出していた。
あたし、なんで走ってるのかな。
……逃げてるみたいじゃん。
だけど……。
なんか。
見ちゃ、いけなかった気がする。