ダンデライオン~春、キミに恋をする~


教室の中、大きなグランドピアノの前に泉先生がいた。


窓から朝日を浴びて、真っ黒な髪がキラキラ光ってて。
雪みたいに白いその肌が、陽射しを受けて、溶けてしまいそうだと思った。


でも……、




「……なんで……」




先生の視線の先。

ピアノのイスになんの違和感もなく座る、男子生徒がいる。





成田響。




なんで?

成田君が、音楽室なんかに。





ピアノを挟んで、穏やかに微笑むのは泉先生だ。

どこか余裕のある、甘美で艶やかな微笑み。


成田くんって部活とかやってたかな。

吹奏楽?
知らなかった……。


息をのんで見つめていると、不意に泉先生が振り返った。




「……ッ……」




弾かれるように、あたしは音楽室のドアから離れる。

そして、そのままくるりと向きを変えて
気づいた時には、全速力で駆け出していた。



あたし、なんで走ってるのかな。
……逃げてるみたいじゃん。





だけど……。



なんか。

見ちゃ、いけなかった気がする。



< 43 / 364 >

この作品をシェア

pagetop