ダンデライオン~春、キミに恋をする~

時が止まったみたいだった。

身体の全部が心臓になっちゃったみたいに、ドクンって脈打つ。


掴まれた腕が熱くて。
息もできないくらい苦しくて。



……なのに。


風の音とか
木の葉がこすれる音とか。

鳥の囀りとか……。


そんな音ばかりが耳の中をくすぐって。


喉の奥がキュウってなった。



……。
…………。





「落ち着いた?」

「……ん」



コクンとうなずいたあたしを見ると。
成田くんは「はああ」って大きな息を吐きながらあたしの隣にドカリと腰を落とした。


ズルズルとベンチに身を投げ出しながらあたしの顔をジロリと見る。


その射るような視線に、耳まで熱くなるのを感じる。



「間宮って騙されやすい方?」

「へ? なんで?」

「だって、勝手に勘違いして逃げちゃうし」

「え!? そ、それは……。って、勘違い……なの?」



なんだかその質問をあたしがしちゃいけない気がして。
気まずくなって視線を泳がせたあたし。

そんなあたしを、まだ寝癖のついたふわふわの髪を揺らしながら、成田くんは楽しそうに目を細めた。


トクン
トクン


いつもと一緒だ。

他の人には見せない、ちょっとだけ油断した成田くん。


この箱庭にいる時だけ、成田くんは『素』を見せてくれている。



少なくとも、あたしはそう思っている。
やっぱり自惚れ、そう言われたらそうなのかも知れないけど。


授業中に、居眠りすることはないけど。
ちゃんと先生の話を聞いているようで、聞いていないようでもある。


頬杖をついてぼんやりと外を眺めながら、窓からの風に髪を遊ばせている。



あたしは、成田くんの後ろの席って言う特等席でそんな彼を盗み見てるんだ。


他人に、あんまり興味がないのかな……。
なんて、彼を見ていてそう思う。


まだ、成田くんが転校してきて1週間だから、無理ないのかもしれないけど。


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