ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「は?なにそれ」
「……」
一部始終を話し終えたところで、沙耶は腕を組んで眉間にシワを寄せた。
「それって告られたってことなの?」
「……わかんない」
「でも、付き合ってって言われたって事は。 告られたんだよね?」
「…………わかんない」
バカみたいに、「わかんない」を繰り返すあたしに、沙耶は呆れたような顔をした。
「手ぇ、出さないって最初に言う告白……初めて聞いた」
「……」
手元に落としていた視線を上げて、窓から外を眺めた。
そこに見覚えのある後姿を見つけて、あたしは思わず立ち上がっていた。
「あ」
「え?」
沙耶もあたしに習って、その先を追う。
そしてその姿を見つけると、窓の外に顔を向けたまま沙耶が言った。
「でも、やったじゃん。付き合うんでしょ?」
そう言うと、沙耶はにっこりと微笑んだ。
あたしはなんて応えたらいいのかわからずに、ただうやむやな笑顔を返した。
「あたし、航平が待ってるから行くね」
「え? うん……でも、沙耶……」
コーヘイ?
コーヘイって言うのは、本名、大和航平(ヤマトコウヘイ)君。
24歳で、沙耶の年上の彼。
このご時勢、いまだに就職先が見つからず、バイトでなんとか日々を暮らしてる生命力に溢れる人。
沙耶にぞっこんで、いつも大体中古のミニクーパーでお迎えに来てるんだ。
って、航平君は確か今日はバイトなんじゃ……。
朝、沙耶が言っていた事を思い出した。
だけど、沙耶はあたしの言葉を最後まで聞かずに、教室の入り口に向かって歩き出していた。
「成田によろしくー☆」
そう言って、沙耶はヒラヒラと手を振るとあっと言う間に消えてしまった。
ひとり取り残されたあたしは、もう一度窓の外を見た。
…………。
「……よし」
そして、意を決して鞄を掴むと沙耶とは反対側へ足を向けた。
向かう先は、決まってる。