ダンデライオン~春、キミに恋をする~
小さな扉が開いている。
それは、まるで別世界への入り口。
そこから吹き込んでくる風はどこまでも穏やかで、肩まで伸びた、あたしの真っ直ぐな髪をサラリと揺らす。
甘く誘ってる、そんな気がする。
――そして、あたしを惑わすんだ。
長い長い廊下が暗い分、外へ出た瞬間に感じる眩しさは目がくらむほどだった。
……いないや。
ここにいると思ったんだけど……。
彼の姿は見つけられなかった。
キョロキョロと辺りを見渡してみても、そこは小さな空間で。
隠れる場所なんて、どこにもない。
相変わら新緑はキラキラと、その葉を揺らしてるし。
手入れされた花壇では、ちょっとだけ元気を失くしたチューリップやパンジーがいつものようにそこにいた。
緑のじゅうたんの上には、まばらに置かれたタンポポの花。
あたしと彼の秘密の「箱庭」。