ダンデライオン~春、キミに恋をする~
こんなに男の人の顔、間近で見たの、初めて……。
なんの香り?
バニラ……かな。
甘い……。
瞳は二重で。
その真っ黒な瞳の中に、何度も瞬きを繰り返すなんともマヌケなあたしが映り込んでる。
うぅ……そんなジッと見つめないでほしい。
タラタラと背中に冷たい汗をかく。
ドクン
ドクン
そっと見上げると。
当たり前のように、視線は絡まって、グルグルとあたしを締め付ける。
長いまつ毛の奥に、薄く茶色がかってる切れ長の瞳。
その中に吸い込まれちゃいそうな感覚になる。
瞳の引力で成田くんは、きっとあたしを飲み込むことができる。
「ね、もう一回言ってみて?」
あたしを囲うようについていた手を片方ポケットにしまいながら成田くんは楽しそうに言う。
「え、な、なにを?」
「なにって、名前」
名前ッ!!?
ギョッと目を見開いたあたしを見て、目を細めるとさらに腰を落としてあたしに視線を合わせてきた。
な、なにこれ……。
この人、こんなキャラだっけ?
「ほらほら」
「……え…えーと………ひ、響……君」
ようやく言えた時には、1日の労力を使い果たしたくらい疲労感に襲われた。
「――響。 それでいいよ。言えるじゃん。今の間宮見てたら、俺まで窒息しそうだった」
そう言って、「疲れた」ってまるで子供のように楽しそうに目を細めた響。
目じりを下げて、綺麗な唇をキュッと上げて。
な、なによ。
こんなのずるい。
「……イジワル」
仕返しのつもりで言った言葉に、響はなんだかおかしそうに口角をキュッと持ち上げる。
「俺は、優しくなんかないよ」
そして、声のトーンを少しだけ下げてそう言ったんだ。