ダンデライオン~春、キミに恋をする~
ポカーンと口を開けたままのあたしを、それはそれは楽しそうに見下ろしてる響がいた。
ハッとして響の影から向こう側を覗き込んでも、もうそこにエリカ達の姿はなくて。
やっぱり、助けてくれたんだと気づく。
――――……
――――――……
だけどその一件で、あたし達はところ構わずイチャつく“バカップル”になったわけ。
でもね?
響があたしに近づいたのなんて、あの時の一度きり。
それ以来、なにもないし。
手も握らない。
ただ、一緒にいるだけ。
……それだけなんだ。
「はぁー」
頬杖をついて大きな溜息をつく。
目の前には、黒板の前でまるで滑るように音符を描く泉センセ。
……先生の腕、白くて綺麗だな……。
長くて真っ黒な髪を今日は1つに束ねている先生のうなじは色っぽい。
音楽の授業だけは、いつもうるさい男子も静か。
その理由はただひとつ。
みんな、先生を眺めるのに忙しいんだ。
男子って、しょーもな。
なんて、呆れてみたりして。
だけど、あたし達もショウちゃんが新しく就任した時は同じような感じだったのかもしれない。
泉先生の細くて華奢な指先から生み出される音符は、まるで生きてるみたいだ。
「……」
あたしは先生から視線をそらして斜め後ろの窓際の席をこっそりと見た。
もちろん、その先にいるのは響だ。