ダンデライオン~春、キミに恋をする~
・黒いピアノ
その教室の前で思わず足が固まる。
――……音楽室。
「……」
震える指先で、ケータイの通話ボタンを押した。
♪♪―……
それと同時に切れる着信音。
やっぱり中に響が、いるの?
ドクン――って
また鈍く心臓がはねる。
あたしはゴクリと唾を飲み込むと、そっと音楽室のドアに手をかけた。
『ダメだよ』
そう声がする。
もうひとりのあたしが、そう言ってる気がした。
カラ……
ドアに顔をくっつけて中をそっと覗き込む。
「……?」
なぁんだ。 誰もいないじゃん。
ほんのちょっとだけ開いたドアの向こうに見えたのは、やっぱりさっきの教室みたく誰もいなくなった音楽室だった。
はあぁあ、ドキドキしたよー。
心臓に悪いっつの。
って、もしかして響ケータイ忘れてるのかな。
だったら持ってってあげなきゃ。
急に肩の力が抜けたみたいになって、あたしは勢いよくドアを引いた。
ガラガラ――
『ダメだってば』って声が聞こえた瞬間、あたしは目の光景に息を呑んだ。