ダンデライオン~春、キミに恋をする~

大きな窓から降り注ぐ初夏の陽射しが
キラキラと教室の中を白く浮き立たせてるみたいだ。

その中で、異質な存在のような大きくて真っ黒なグランドピアノ。


その上に、溶け込んでしまいそうな黒い髪がハラリと落ちる。



ドクン ドクン



……なに、これ。

目の前の光景から視線が逸らせない。
逸らしたくても、出来ない。


なにかの、映画のワンシーンみたい。



あたしの大好きなやわらかな茶色の髪が、真っ白な細い腕に引き寄せられてて。
その細い体を囲うようにピアノにつかれた両腕。



うそ……だよ。





そして――……顔を上げた。




「…………椎菜?」

「……っ……」





その瞬間。
まるでなにかに弾かれるようにあたしは駆け出していた。




風を切って走る。
まだ校舎に残ってた生徒が、あたしを不思議そうに振り返っても。
そんなの関係なくて。


ただ、無我夢中だった。



苦しくて
苦しくて

息も出来なくて。


だけど
あたしは走ることをやめなかった。





< 78 / 364 >

この作品をシェア

pagetop