ダンデライオン~春、キミに恋をする~
大きな窓から降り注ぐ初夏の陽射しが
キラキラと教室の中を白く浮き立たせてるみたいだ。
その中で、異質な存在のような大きくて真っ黒なグランドピアノ。
その上に、溶け込んでしまいそうな黒い髪がハラリと落ちる。
ドクン ドクン
……なに、これ。
目の前の光景から視線が逸らせない。
逸らしたくても、出来ない。
なにかの、映画のワンシーンみたい。
あたしの大好きなやわらかな茶色の髪が、真っ白な細い腕に引き寄せられてて。
その細い体を囲うようにピアノにつかれた両腕。
うそ……だよ。
そして――……顔を上げた。
「…………椎菜?」
「……っ……」
その瞬間。
まるでなにかに弾かれるようにあたしは駆け出していた。
風を切って走る。
まだ校舎に残ってた生徒が、あたしを不思議そうに振り返っても。
そんなの関係なくて。
ただ、無我夢中だった。
苦しくて
苦しくて
息も出来なくて。
だけど
あたしは走ることをやめなかった。