ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「……はッ……はあ…っ…はあ……」
足がもつれながら必死に走って、たどり着いた場所。そこは、うちからほど近くの小さな公園だった。
緑のフェンスに囲まれた公園の真ん中には、古ぼけた一本の桜の木が、静寂の中息を潜めている。
公園に滑り込むと誰もいないことにホッとしつつ、あたしは迷わず桜の木まで駆け寄った。
青々と茂る木の下までなんとかたどり着くと、乱れている息を整えようと、大きく息を吸い込んだ。
「……はあ……はあ……」
太い幹に手をついて、顔を上げる。
オレンジに染まる街の中で、それに溶け込んでしまいそうな街灯の明かりがやわらかくそして静かにあたしを見下ろしていた。
「……」
『だから言ったのに』
また、声がした。
いまさら後悔しても遅いのに……。
……あたしのバカ。
呆然と立ちつくしたまま。
頭の中に焼きついた映像が、ただ無限に繰り返されてる。
……わけがわかんない。
何?なんだったの?
まるで幻みたく白い世界だったあの音楽室で、あの二人はなにしてたんだろう。
泣いてた。
頬が濡れてた……。
なんで? 泉先生は……。
泣いてたの?
冷静になればなるほど、意味がわかんなくて。
頭の中が真っ白になってく。
考えようとしても、ふたりの抱き合う瞬間しか浮かんでこない。
「…………」
幹にもたれかかるように、あたしはその場にしゃがみこんだ。
喉の奥が焼けるように熱い。
茜色に染まる空が滲む。
やだな……。
まだ全然響のこと知らないのに。
このまま、あたし達……
ダメになっちゃうのかな。
泣きたくない。
だって、泣いたら余計認めた事になりそうで。
それでも、あたしの意思とは関係なく頬を濡らす冷たい涙を隠すように。
あたしは両手で顔を覆った。
胸が苦しくて……
息ができないよ……。
……響……――。