ダンデライオン~春、キミに恋をする~
振り返った先にいた響は、肩で息をしながらその表情を崩していた。
「……」
走って……?
頭の中をグルグルと色んな思いが巡る。
期待しては消え……期待しては消えていく。
呆然とただ立ち竦むあたしの視界に、ズボンのポケットからユラユラ揺れるエンジ色のネクタイが見えた。
首から外されたそれが、まるで今のあたしを表してるみたいだ。
少しづつ縮まる、響との距離。
「…………」
響の動きに合わせて動くやわらかい前髪の隙間から、あたしを見つめるその真っ黒な瞳。
思わず身を引きそうになって、でもそれは許してもらえない。
瞳の呪縛。
まるで魔法だよ……。
目の前までくると、響がまっすぐにあたしを見下ろす形になった。
少しだけ首を傾げて、安堵したように、小さく溜息をついた響。
その瞳の中に、目を腫らしたあたしが映ってる。
……うわ、酷い顔。
泣いてたの……バレたくないな。
「響?」
「電話しても出ないし、家に行ってもいないし……」
……え?