ダンデライオン~春、キミに恋をする~
息を整えながらそう言った響は、眉間にグッと皺を寄せて滴り落ちる汗を腕で拭った。
「そ、そうなんだ……携帯の電源切れちゃってて……気づかなかった。 ……あれ?あたしの家なんて知ってたっけ?」
「さっきちょうど、巻髪の、椎菜の友達に会って。教えてもらった」
……沙耶だ。
少しだけ湿った髪をすきながら、響はあたしに視線だけを向ける。
そっか、それであたしの家がわかったのか。
でも……
「……なんで……」
あたしなんか探してたの?
そう言いかけて、その言葉はどこかへ消えてしまった。
手を伸ばせば届く距離にいる響。
――ドクン
目にかかる前髪の隙間から、あたしをジッと見つめる。
「……あ、あの……」
「いなくなるとか。……やめてよ、そーゆうの」
「……え?」
――あたしがそう言うより早く。
響が先に口を開いた。
「……心配……する」
「……」
まるであたしを包みこむような。
それはそれは優しい声で言うんだ。
頭の中は真っ白。
そこは音楽室で。
泉先生の細い腕が、響を引き寄せてる。
なに、それ。
ずるいよ……――。