ダンデライオン~春、キミに恋をする~
街灯の下の小さなベンチに座っていると、不意に足元に影が落ちた。
顔を上げると両手に飲み物を持った響がふわりと笑った。
「ん。 甘いものは心を落ち着かせる効果があるんだって。って、俺が言うのも変だね」
「……はぁ」
なんて曖昧な返事をしてしまう。
……だって。
見上げた先には、のんびりと穏やかに笑う響。
さっきの真剣な表情からは想像もつかないよ。
ジッと見つめてから、その手元に視線を落とす。
……うげ! 苺ミルク。
実はあたし、乳製品の飲み物が苦手だったりするんだ。
「……あ、ありがと」
苦笑いをしつつ、それを受け取るとあたしの隣に腰を落とした響がちょっとだけ悪戯な笑みを浮かべた。
「な、なに?」
首を傾げたあたしを見て、スッとその瞳を細めると「飲みなよ」って言ってストローをくわえた響。
……へ?
な、なんか……響の背後にくろーいオーラが見えるのはあたしだけですか?
だ、騙されないんだから!
あたし怒ってるんだからね!
「……」
両足をベンチの上に乗せた響は、膝に腕を乗せて空になった苺ミルクのパックをクシャリとつぶした。
あたしは、なんとなくそれを眺めながら苺ミルクを口に含んだ。
……うえー。やっぱまずいよぉ。
まだまだたくさん入ってる小さなパックを恨めしげに見つめてみる。
響がくれたんじゃなきゃ、すぐにポイッてしちゃうのに。
もったいなくて出来ない……。
「……あの人はさ」
「……」
唐突に切り出した響の声に、ビクリと体が硬直した。
加速する心音を落ち着かせるように、小さく息を吐くと響に視線を送る。
その顔はどこか懐かしむように、遠くを見ていた。