ダンデライオン~春、キミに恋をする~
そして。
ポツリポツリと、話をしてくれた。
「あの人は、俺の中学ん時の家庭教師だったんだ。……1年間、俺の家に来てて勉強を教えてもらってた」
「……家庭、教師?」
「うん」
目を丸くしたあたしを見て、ちょっとだけ口元を緩めた響は手元でくしゃくしゃになった苺ミルクに視線を落とした。
何かを考えるようにジッとそれを見つめてから小さく息を吸い込むのがわかった。
そして――……彼はためらいがちに言ったんだ。
「―――好きだったんだ」
「……」
ドクンって心臓が鼓動を強くした。
何かで頭を殴られたような、そんな感覚。
目眩が、する。
頭では、わかっていた。
こうなる事を、予想していたはずなのに。
「あの人も、俺が好きだと思ってた。……だけど、俺の知らないとこであの人は……俺の兄貴と付き合ってたんだ」
「……お兄さん?」
「そう。 兄貴の隣で、俺に向けてた笑顔と同じもん見せてたんだ。信じらんなくてさ、問い詰めて……そしたら『どっちも選べない』って言うんだ。実際のとこ、付き合ってるって思ってたのは、俺だけだったみたいなんだけどね」
そう言って「バカみたいだろ」って眉を下げて笑う響に、胸がぶれそうだった。
「それから俺と兄貴もギクシャクして、あの人を避けるようになったんだけど。
その事気にして、兄貴とも別れたらしくて。そーゆうの嫌でさ。
――んで……面倒くさくて、逃げた」
「……」
響がすごく哀しそうだから、あたしは気の利いたセリフも言えなくて、うなずく事も出来なくて。
ただ、だまって響の言葉に耳を傾けた。
「逃げて、ここまで来たのに。まかさ偶然この学校の先生になってるなんて。神様がいるなら、俺にすっごくイジワルだ」
『それ以上言わないで』って、そう言いたいのに、あたしの頭と体がまるで別々になっちゃったみたいに、言う事を聞いてくれない。
でも、これだけはわかった。
響……
まだ、先生のこと……。