ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「……あの人をごまかせるならなんでもよかった。 一番早い方法が、俺に、彼女がいる事だと思ったんだ」
……え?
「誰でもよかった」
……響……。
「椎菜じゃなくても……よかったんだよ。
あの人に、俺に彼女がいるって思わせれれば」
そこまで言って、響はあたしの顔をジッと見つめた。
その瞳の中が、なぜか揺れてる。
哀しいのは、あたしだけじゃない。
この人も一緒なんだ――……。
「だから。俺は全然優しくなんかないんだ」
あの日、初めて会った時のように穏やかな笑顔を浮かべる響。
響はどんな時でも、どこか穏やかな笑みを浮かべてる。
でも今わかった……。
それって、響のほんとの笑顔じゃないって。
やわらかな風が、あたし達の間をすり抜けて。
響の髪をふわりと撫でた。
持ち上がった前髪の間から、真っ直ぐにあたしを捕える。
響が、これから何を言おうとしてるのか、なんとなくわかるよ?
だけど……。
だけどね?
ほんの一瞬だったのかもしれない。
まるで永遠のような、永い瞬間――……。
あたしと響の視線が絡み合う。
それは苦しくて。
どうしよもなくて。
だけど、逸らすこともできなくて。
響の『想い』が流れ込んできて、あたしの視界を濁した。
胸が……潰れちゃいそうだよ……。
息をするのも、苦しくなりながら。
あたしは口を開いていた。
「あたし……いいよ?」