ダンデライオン~春、キミに恋をする~
Season2 向日葵にキス
・バスに揺られて
「椎菜! こんな時間までどこ行ってたの?」
玄関を開けると、リビングのドアを開けて勢いよく出てきたのは。
「……う。 お母さん」
そう、例えるなら阿修羅。
我が母親ながら、なんて顔してんだ!
……こわー、こわー!
ビクビクして体を縮こまらせたあたしなんかお構いなしで、お母さんは両手を腰に当ててあたしをジロッと見下ろした。
「え、なに?今日はなんかあったっけ?」
「もぉー。 朝あれほど早く帰って来てねって言ったのに。 今日は七美の先生が来るっていってたでしょお」
呆れたように小さく溜息をつくお母さん。
「あ。そっか……すっかり忘れてた」
そうだった。
今年中3のあたしの妹。七美(ななみ)
受験間際って事で、家庭教師を頼んだっていってたっけ。
で、なんであたしが必要だったかって言うと……。
「お母さん、ドキドキしたわよぉー。でも、爽やかな優しい先生でよかったわ」
いい大人して。
うちのお母さんは、けっこー人見知り。
胸に手を当てて大袈裟にホッとしてみせるお母さんは、42歳でまだまだ若く見える。
怒ると、恐いんだよなぁ……。
「そうだ。 あんた、さっき男の子がうちに来たんだけど……」
「へッ!!」
油断してた。
そうだっ。響、うちに行ったって言ってたっけ!
ハッと顔を上げると、お母さんがニヤニヤ顔であたしを見た。
「……誰なのぉ? まさか椎菜の彼氏?なによ、すっごく素敵な子じゃないの!うふふ。椎菜もすみに置けないわねぇ」
「えッ! や、……てゆか、へ、変な事言わなかったでしょーね?」
「あら、やだ。失礼ねぇ。 もう帰ると思うから上がっていく?って聞いただけよ。 でも『いえ、探してみます』って言ってまた走って行っちゃったのよね。なんか焦ってた感じだったけど…。会わなかった?」
「……え。 えと……」
シューって全身から湯気が出そう……。
お願いだから、それ以上の追求はやめてほしい。
「……邪魔」
「……」
なんともタイミングよく背後で声がして、あたしはハッとして振り返った。