ダンデライオン~春、キミに恋をする~
「えー、イツキ先生食べてってよ!」
なんて七美が『イツキ先生』の服の袖をクイッと引っ張った。
「えっと、じゃあお言葉に甘えて」
「やったーっ」
七美が少しウェーブのかかった髪をピョンピョンさせて喜んでる。
なんだ、すでに馴染んでるじゃん。
「ほら、椎菜。 先生にご挨拶」
「……え、あ……うん」
あたしも?
急に話を振られ、ボーっと眺めていたあたしの体はビクリと飛び上がった。
オズオズとその場に歩み寄って、あたしはペコリと頭を下げた。
「は、初めまして。 七美の姉の、間宮椎菜……です」
「こちらこそ、初めまして。 樹(イツキ)と言います。どーぞよろしく」
うーん。
……やっぱり。
どっかで聞いたことあるんだよなー、この声……。
ぼんやりしてると、目の前に先生がにっこり笑ったのがわかって、なんとなく頬が火照ってしまう。
だって、だって……。
すっごく素敵なんだもん!
真っ黒でやわらかそうな髪をふわふわさせて。
真ん中で分けた前髪が、とっても知的!
いかにも、『先生』って感じだよーっ。
ニコニコ微笑んでる樹先生から視線をそらせなくて、暫く見つめちゃった。
――――……
――……
「それじゃ、また金曜日に来ます」
玄関先で樹先生はそう言うと、真っ暗な夜の道に消えて行った。
「……素敵な先生だね、七美」
「うん。チョーらっきー」
「バカ。 あんたちゃんと勉強しなさいよ」
それからカケルに「虫が入るだろ、玄関閉めろ!」って言われるまで。
先生の後姿を、あたし達はひたすら見送り続けていたんだ。