迷宮の魂
いっそ自ら全てを打ち明けた方が気持ちが楽になるかも知れないとも思い、事情を知っている者に相談した事もある。
「和也君、嘘はいけないが隠す事は嘘をつくのとは違うよ。黙っていれば良いんだ。真実を知らせることで、自分の居場所を狭めてしまうのなら、隠す事も致し方無いんじゃないかな」
「しかし、何かの折に問い質されたらどう答えればいいんです?ただ黙るだけじゃ誰も納得しないでしょう。第一経歴に関わる事なんですから」
「それでも出来るだけ自分からは言わない方がいいと思う。相手が理解してくれると思えるまでね」
「そんな日が来るのでしょうか?」
「大丈夫、現に私はこの事を知っているが、君を信じている。この先も君が今の気持ちのままで頑張っている限り、理解してくれる人間は必ず現れるさ」
貴方がそう思うのは、僕のような人間達と常に接しているから……
と言いそうになったが、口には出さなかった。
自分の秘密を知ったなら、きっと誰もが見る目を変えてしまう。けれど、それで人を恨む資格など自分には無い。
和也の胸の内は、晴れ間を忘れた冬空のように、厚く灰色の雲で覆われていた。
この土地で和也の秘密を知っているのは、たった一人の身内である母を含め、ごく一部の人間だけだった。元々この土地の人間ではないから、幼馴染もいないし、知っている者達も、その事を言い触らす人間ではない。
だから、和也自らが話さない限り、秘密は秘密のままでしまっておけることは確かだ。
それが、つい一時間前、新たに自分の秘密を知る人間が一人増えた。