迷宮の魂
食事を終えると、それぞれ店に向かう。中には化粧だけ済まして食事をし、一旦、着替えに部屋へ戻る子も居る。
美幸と遥は、先に着替えも済ませていたから、揃って店に向かった。
まだ明るさの残っている道を歩きながら、美幸はふと昼間見た彼の傷の事を思い出した。
遥から他人の事を詮索するなと言われていたのに、どうしても気になって仕方が無かった。それで、つい遥に聞いてみた。
「あの男の人って、島の人なんですか?」
「直さん?あたしが来るずっと前からエリーに居るみたいよ。気になるの?」
「別にそういうわけじゃあ……」
「そりゃあ気にもなるよね。あたしら以上に理由有りっぽそうだからね。みんなあの人のことを直さんて呼んでるけど、直也っていうのが名前だとしか知らないし。気になるかも知れないけど、言ったでしょ、余り他人を詮索しちゃいけないって。込み入った理由が無くてやって来た人ならいいけど、そうじゃないんだもん」
遥の口振りだと、多少は事情を知っているような感じだ。ひょっとしたら、手首の傷跡の事も知っているのかも知れない。
結局、傷の事は聞きそびれてしまった。
そんな事もあって、暫くは他人に関心を持たないように意識した。
仕事の方は、一週間もするとすっかり慣れ、遥以外にも話の合う女の子が出来た。
莉奈という子で、スキューバダイビングが趣味だと言った。
年齢は二十歳になったばかり。
島には車の免許を取る為に来たという。
「八丈島に住民票を移して、二ヶ月以上経てば免許をこの島で取れるの。試験場なんて無いから、警察署の駐車場で一発試験の実技をするんだけど、すごく簡単なんだって。合宿免許よりもお金が掛からないし、暇な時間はマリンスポーツが出来るから最高だよ」
友人から聞いて一ヶ月前に島に来たらしい。
遥曰く、理由有りじゃない女の子の部類に入る子だ。だからなのか、少しばかり他の子達からは浮いているようにも見える。
尤も、それは彼女が暇さえあればスキューバダイビングをしに出掛けているからで、本人の性格とかそういった事で浮いている訳ではないだろう。何の悩みも無く屈託の無い笑顔を振り撒く彼女を自分達とは異質なものと受け止めているだけなのかも知れない。