迷宮の魂

 河川敷のグランドでサッカーをしている少年達を、その男はぼんやりと眺めていた。

 俺が子供の頃はサッカーよりも野球だったけどな……

 そんな事を考えながら、冬枯れの草むらの中で時折顔をしかめた。

 寒さが堪える日は、顔の引き攣りがひどい。

 痛みを和らげる為に市販の鎮痛剤を多めに飲んだりするが、痛みが和らぐ事は無く、寧ろ薬の副作用なのか頭痛がする。

 きっと、この時もそのせいで、ただせさえ醜くなった顔を歪めていたのだろう。

 グランドから大きく蹴り出されたボールが、その男の足元に転がって来た。

 男がボールをひょいと取ると、近くまでボールを追い駆けて来た少年が、その場で足を竦ませてしまった。

 男がボールを渡すと、少年は何も言わず、逃げるようにして仲間の所へ走って行った。

「こええ」

「どうしたんだよ」

「まるでフレディみてえだったんだぜ」

「うそ!」

「ほんとだって、お前も見て来てみろよ」

「やだよ」

 少年達の会話が、風に流れて男の方にも聞こえて来た。

 フレディか……

 この焼け爛れた顔を見れば、誰でも気味悪がるさ……

 男は立ち上がり、ズボンに着いた土を払った。

 ゆっくりと土手を登る。

 歩く姿が、遠目にも足が不自由だと判る。

 何処へ行く当ても無く、男は取り敢えず歩いた。歩く事でしか、生きているという事を感じ取れなかった。

 彼とすれ違う者は皆、その異様な風体に驚いて振り返り、直ぐに視線を逸らす。中には、初めから意識して見ないようにする者も居る。

 そういう視線にはもう慣れた。その男にとって寧ろ焼け爛れた顔は、世を忍ぶ姿としての仮面に相応しいものであったのかも知れない。



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