迷宮の魂
「滝本先生、三山さんという方からお電話が入ってます」
三山?
そんな名前の知り合いは居ないから、滝本は自分が担当している患者であろうかと考えた。
電話に出ると、予想に反して警視庁の刑事だという。しかも、女である。
「どんなご用件でしょうか?」
三山と名乗った女は、10年前に治療した前田健一について知りたいのだと言って来た。
「そちらは、警視庁とか言っていますが、電話では確認しようがありませんよね。我々、医者にも守秘義務というものがあります。個人情報に関する事は、電話ではお答え出来かねます」
滝本の言っている事は尤もですと言って、それでは、後程こちらの電話番号にお掛け下さいと言って一旦切った。
教えられた電話番号に掛けると、警視庁の代表番号であった。内線で三山を呼び出すと、先程掛けて来た女が出た。
これで警察だという事が判り、滝本は三山に何故前田健一の事を警視庁が調べているのかを尋ねた。
(現時点では、詳しくは言えませんが、ある重要参考人の情報を集めています。前田健一と、その重要参考人とが関係しているのではないかというのが、理由です)
滝本は漸く納得し、当時の診察カルテを調べてからもう一度ご連絡しますと言った。
(それでしたら、私の方からある人物の写真をファックスで送りますので、その写真の人物と、前田健一なる人物が同一人物かどうか確認しておいて下さい)
ものの一分とせず、ファックスが届いた。
やや画質が荒かったが、滝本はその写真を見て、記憶を呼び起こそうとした。
10年前のカルテを探し出すのに結構時間が掛かり、しかもその間に救急患者が運び込まれたりしたものだから、滝本が再び三山に電話をした時には、夕方の6時を回った頃であった。
三山はずっと連絡を待っていたらしく、内線の直通電話を掛けると直ぐに出た。
「先ず、送って頂いた写真の人物ですが、正直言って、これでは判りませんが、右半分はそっくりです」
(ほんとうですか!?)
電話口からも、三山が興奮しているのがはっきりと判った。