迷宮の魂
「ええ。職業柄、人の顔を記憶する事には自信がありますが、ただ、当時のカルテを調べてもそうだったように、運ばれて来た前田さんという男性は、顔面に酷い火傷を負っていました。
特に左半分は、一部の肉が焼け落ちてしまい、原型を留めていませんでした。」
(火傷の度合いは?)
「幸い、命に影響する程ではありませんでしたが、後遺症は間違いなく残るでしょう。それに、本来ならば長期入院をし、損傷した部位に皮膚の移植を重ねて行わなければならなかったのですが、この患者さんは、突然病院から居なくなったんです」
(……その詳しい日にちとか記録されていますか?)
「全てカルテに記録してあります。後々、こちらの責任だとか言われたくありませんので、ちゃんと記されてありますよ」
(顔の他に、外見上目立つ火傷とか怪我は?)
「両腕ですが、特に左手が酷かったようです。殆ど開かないんじゃないかな。救助された時に、右手で助けた女の子を抱えていて、左手で助けた子と自分の顔を覆っていたらしく、それで火傷が酷かったのかと思われます。
あと、火傷の他に右足首を複雑骨折してました。あっ、そうだ、その時に、術後の経過を記録する為に、写真を撮ってあるんです」
(写真……それは、今現在の姿と思って宜しいのですか?)
「別な病院で、皮膚移植とかをしてなければ、当時うちで手術した状態のままでしょうね。
まあ、これまでのところ、他所の病院から問い合わせはありませんでしたから、写真のままでしょう」
(別な病院で治療すると、問い合わせとかあるんですか?)
「軽度な、手術を必要としないものでしたら、そういう事はありませんが、あれだけの火傷で、しかも緊急の皮膚移植をしていますから、もぐりの医者でもない限りは、必ず問い合わせて来ます。再手術をする際に、前回のカルテが必要となりますからね」
(判りました。それでは、今から言いますファックス番号に送って頂けますか)
「写真をですね」
(カルテから全てを)
全部と事も無げに言われた滝本は、さすがにムッとしたが、相手が警察であるから、渋々承知した。
これ全部だと?まいったなあ、こりゃサービス残業だぜ……
ボヤキながら滝本はファックスのあるデスクへ行った。