迷宮の魂
加藤の思う所は一点しか無かった。
佐多は、母親に会いに行く……
25年前、釧路を出てから一度として戻った形跡が無いにも拘らず、加藤は確信めいた思いでそれを考えていた。
尤も、そう思い始めた根拠はある。
三山から見せられた前嶋の捜査資料がそれであった。
前嶋のそれは、捜査資料というよりも、佐多の心情を読み取ったものという印象があった。
佐多和也の原点は何か、何処にあるのか。
容疑者の多くが、彷徨い果てて最後に行き着く場所をそういった所に求める。
加藤自身、そういった容疑者を何人も見て来た。生まれ故郷であったり、幼い時に暮らした事のある場所であったり。
場所でない場合は、それが人になる。
一番多く見られるパターンは、家族の所へ姿を現すケースだ。
前嶋のファイルに、
『佐多和也は、家族、家庭というものに縁の無い人生を送って来た。どうしようもない父親に家族というものを粉々にされ、佐多は父親を殺してしまった。
唯一の肉親を自らの手で殺してしまった事で、佐多は絶望したであろう。その心情は、彼が収監されていた刑務所での服役態度からはっきりと読み取れる。
だが、そこに実の母親が現れ、自分にも家庭、家族を持てるという希望を抱いた。その事は、服役中の後半に於ける刑務所側の記録にも記されている。
生まれ変わったと思えたであろう。戸籍すら作って貰えてなかった状況が、一変したのである。
釧路という土地が、佐多にとって特別な場所になった。恐らくは、今までの人生の中で、一番幸福なひと時ではなかったか。しかし、それも一人の女性を知った事で、地獄の迷宮へと突き進んでしまった……』
この文面は、
彼は最後の場所を今でも探し歩いている……
で終わっていた。
奴の最後の場所は、間違いなく釧路だ……
それを導き出す答えを、加藤は探しあぐねていた。