迷宮の魂
本庁内で加藤と直接顔を合わす事を極力避けていた三山だったが、この時ばかりはそんな慎重さも消し飛んでいた。
内線で呼び出せば済む事であったが、気持ちが先走り気が付いたら廊下を走っていた。
機捜の加藤班は一課と合同で、連続強盗事件の捜査に追われていた。そういった殺気だった刑事部屋へ、いきなり三山が飛び込んで来たものだから、全員が一斉に場違いな奴が何だ?というような視線を寄越した。
「あんたさあ、こういう文明の利器があるんだから、何も直接来なくたって」
携帯電話を指差しながら、今はまずいよ、と加藤は顔をしかめた。
「これ、時間があったら、いえ、今すぐ見て」
三山はそう言ってA4サイズの茶封筒を渡し、風のように去って行った。
「加藤ちゃん、なんだあれ?」
「新しいこれか?」
口さがない連中が、今のやり取りを見て囃し立てた。
「いやあ、もてる男はつらいね」
彼等に口を合わせて冗談を言いながら、加藤はトイレに行くと言って部屋を出た。
三山が血相を変える程のものとは何だろう……
洋式トイレの便座に腰掛け、茶封筒の中から一枚の写真と、数枚の書類を取り出した。
5分後、トイレから出て来た加藤の顔色が変わっていた。
とんでもねえもんを掘り当てやがった……
そのまま刑事部屋には戻らず、加藤は駐車場へ行った。自分の車に乗り込むと、運転席に座ったまま、携帯電話で三山に電話をした。
呼び出し音一回で、三山の声が耳元で響いて来た。
「今、大丈夫か?」
(ええ。見た?)
「見たから掛けた。あれ、間違いないか?」
(ええ)
「銀行の記録を調べればいいんだな?」
(やってくれる?)
「どうせ、頼むとか言うんだろ。今から行ってくるよ」
携帯電話を切った加藤は、封筒に入っていた前田健一名義の口座がある、銀行の丸の内本店に向かった。