迷宮の魂

 写真は焼け爛れた顔の男のもので、横にマーカーで前田健一と名前があった。書類には、前田健一名義の銀行口座番号、そして、三山の文字で、佐多和也と書き殴ってあった。

 銀行の窓口で警察手帳を見せ、用向きを伝えた加藤は、応接間に通された。

 5分程すると、店長だという50歳位の男が、預金課の課長と一緒にやって来た。

「ごくろうさまです。御用件は伺いました。お調べするのは、前田健一名義の口座の出入金記録ですね」

「ええ。以前から追い駆けています重要参考人が、前田健一という名前で逃走していると思われ、その足取りの手掛かりにお聴きしたいという訳なんです」

 来意の説明をした加藤は、前田健一という人物が、平成10年3月に、この銀行の大阪市内西成支店で口座開設された記録を見せた。

「これは、確かにうちの支店で作られたものですね。一応これは詐欺事件か何かの?」

 このところの、架空請求詐欺事件から、銀行側はその件だろうかと思っているらしい。

 本来、銀行は口座取引に関する資料を簡単には呈示したりはしない。完全に犯罪に使用されたと判ってからでないと、応じる事は稀であった。だが、一連の詐欺事件の影響から、以前とは違って簡単に捜査協力をしてくれるようになった。

 店長が預金課長に資料を持って来るようにと告げると、間もなくプリントアウトされた書類を持って来た。

 その記録を調べてみると、前田健一は、大阪市内のATMを平成10年の8月を最後に使用していない。その後は、尼崎、三宮と大阪周辺での使用歴があり、平成13年から19年に掛けて横浜周辺に集中していた。

 それから暫くの間は出入金が無かったが、平成20年2月に東京の浜松町支店で引き出され、その後入金は無く、5月に北海道帯広支店で引き出し、翌日には釧路支店で引き出されていた。

 その後、また暫く間が開いたが、9月、10月、11月と、一回の引き出し金額は少ないが記録され、一番最後が、今年、平成21年1月13日となっていた。

 先週ではないか……

 残高は、残り僅かになっている。

 やっぱり、奴は戻ったんだ!

 急がなければ……

 加藤は、上にどう説明して北海道へ飛ぶかの思案を始めていた。



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