迷宮の魂

「その容疑を私のところの課が発見、立証した形であれば、私も佐多和也確保の現場へ向かえる筈です」

「別件も別件、犯罪に使われた形跡も無いただの偽名口座開設だけでフダを取れるのか?」

「容疑事実はどうにでもなります。目的は立件ではありませんから」

「そうまでして奴に関わりたい理由を聞かせてくれ」

「警察官としての使命、などというきれい事は言いません。前嶋さんの意志を継ぎ、無念を晴らせるのは、前嶋さんの教えを受けて今日がある私の義務ですから。それに、箔が付きます」

 三山は、橋本課長の性格を考え、最後に一言付け加えた。

「最後の台詞、気に入ったよ。釧路に飛ぶ人数に君の名前を入れとく」

「もう一人、私の補佐として……」

「判ってる。機捜の加藤もだろ」

 橋本課長の部屋を出、三山は直ぐに加藤へ電話を入れた。

 その夜、退庁してから加藤と有楽町にある居酒屋へ行った。

 その店には個室があったので、他人に聞かれたくない用向きの時など、都合が良かった。

「いよいよだな」

 加藤が乾杯ももどかしそうに、逸る気持ちを抑え兼ねているのが見え見えだった。

「加藤さん、お願いがあるんです」

「何だよ、またか。あんたのお願いは、辞表覚悟で聞かなきゃならねえからな」

「加藤さんが佐多の取調べに当たれるよう、根回ししました」

「さすがキャリアだね」

「これは、初めて加藤さんに話す事なんですが、事件当初、本庁は容疑者として佐多和也を指名手配し、チョーバ(捜査本部)の看板を立てましたが、それをどういう訳か早い時期に下ろしてしまいました。何故だか判ります?」

「言われてみれば、そうだよな。半年足らずで店仕舞いなんてのは、いくら行き詰まったからって早すぎるわな。普通ならお宮になるんでも、最低二年位は下ろさないもんだ。俺も、当時は随分と諦めの早いこったって思ってたよ。なんか、理由があったのか?」

「皮肉な話なんですが、私達がその元だったんです……」




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