迷宮の魂
「あんたらしくもねえな。勿体付けねえで話してくれないか」

「結論から言うと、佐多が犯人ではなく、真犯人は別に居るという意見が、本庁の上層部を占めてしまったからなんです。
 最初に上がって来た物証は、尽く佐多を容疑者とするものでしたが、その後、科捜研や検死医からの報告書などで、佐多を容疑者とするには不自然だという空気になってしまったんです。
 パクッて自供させても、あれは自分がやったのではありません、やったように見せ掛けただけですと裁判で言われた日には、こっちはバンザイだって、当時の本部長が独断で打ち切ったんです」

「それ、マジか?」

「今回、この件を調べているうちに判ったんです。皮肉なもんですよね。私が前嶋さんに提出した捜査レポート、あれがきっかけだったそうです。
 あれを元に前嶋さんが裏付けを取り、本部に上げた。それがチョーバの看板を下ろすきっかけになったという訳です」

「あんたは知らなかったろうが、俺も、前嶋キャップに言われて、その線で動いてたよ。しかし、それっぽっちの理由で、普通、看板下ろすか?」

「あの当時、自白を覆しての逆転無罪とかが続いてましたよね」

「そうだったっけ?」

「ええ。上は、それで腰が引けたんです。丁度、サッチョー(警察庁)と本庁で大きな異動が控えていた時期でもありましたから、自分に汚点が付く事を畏れたんでしょう。
 しかし、それが理由だなんて言える訳がありませんから、捜査の行き詰まりという、尤もな理由で手を引いたんです。本庁が手を引けば、所轄が泥を被ったとしても、自分の所までは飛んで来ません」

「キャリア様方の保身ってやつか。なんか胸糞悪くなってきたな。
 で、それと、最初に言ったお願いとどう繋がるんだ?」

「加藤さん、今の佐多を何の罪状で引っ張るつもりです?」

「そりゃあ、荻窪のコロシ……?」

「コロシでフダを?」

「あ、そうか……」





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