迷宮の魂
「重要参考人として、任意同行を求める形にしか出来ないじゃないですか。私達は、佐多は現場の偽装だけで、手は下していないという結論を出しています。コロシでは引っ張れない。でも、橋本課長は前の経緯を知りません。よしんば知っていたとしても、あの人は未解決殺人事件のホシを自分の指揮で上げるという勲章を欲しがっています。
当然、佐多のフダは、コロシになります。ですが、私も加藤さんも、佐多が犯人だとは考えていません。最終目的は、彼がやった偽装を明らかにし、高瀬を容疑者死亡で送検する事です。
八王子の殺人事件は、二年前に時効となっていますから、万が一を考えて、私は詐欺の名目でフダを取ります。
私も貴方も、彼をこのままにしていては、いつか又ああいった犠牲者が出るかも知れない、佐多を逮捕して上げる事で、彼自身が思ってる罪というものを洗い流してやれると思っている。これは、言わば保護であって、逮捕ではないんです。ですが、橋本課長の命を受けた者が、その調べに当たれば、佐多が犯人という前提で調書がまかれてしまう。そうすれば……」
「やっこさんは、それをよしとするだろうなあ……」
「佐多を挙げてくれと前嶋さんから頼まれた時、この事を先ずどう対処しようかと考えたんです」
「で、俺か……」
「はい。加藤さん、貴方でなければ出来ないんです。コロシで挙げたホシをそうじゃないと証明する役は……」
「まったく、随分と損な役回りだよなぁ」
加藤は、温くなってしまったビールを一息で飲み、小さく頷いた。
「場合によっては加藤さんの警察官人生に汚点を残す可能性もあります。逮捕容疑が無実だとなれば……」
「トカゲの尻尾切りは現場と相場が決まってんだ。まあ、俺なんか階級降下食らったって、今でもやっとこ巡査部長だから高が知れてる。左遷で飛ばされるんなら、そうだ、八丈島なんかいいかもな」
「なんでしたら、私も一緒に行きますよ」
「駄目だよ、俺には」
「最愛の妻と」
「そ、可愛い子供が居るから、色仕掛けは勘弁だぜ」
二人は互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべた。しかし、その笑みには物悲しさが漂っていた。加藤がポツリと言った。
「俺が乗せられ易いのは、死んだ親父に似たからだな……」
加藤はその晩、久し振りに痛飲した。
当然、佐多のフダは、コロシになります。ですが、私も加藤さんも、佐多が犯人だとは考えていません。最終目的は、彼がやった偽装を明らかにし、高瀬を容疑者死亡で送検する事です。
八王子の殺人事件は、二年前に時効となっていますから、万が一を考えて、私は詐欺の名目でフダを取ります。
私も貴方も、彼をこのままにしていては、いつか又ああいった犠牲者が出るかも知れない、佐多を逮捕して上げる事で、彼自身が思ってる罪というものを洗い流してやれると思っている。これは、言わば保護であって、逮捕ではないんです。ですが、橋本課長の命を受けた者が、その調べに当たれば、佐多が犯人という前提で調書がまかれてしまう。そうすれば……」
「やっこさんは、それをよしとするだろうなあ……」
「佐多を挙げてくれと前嶋さんから頼まれた時、この事を先ずどう対処しようかと考えたんです」
「で、俺か……」
「はい。加藤さん、貴方でなければ出来ないんです。コロシで挙げたホシをそうじゃないと証明する役は……」
「まったく、随分と損な役回りだよなぁ」
加藤は、温くなってしまったビールを一息で飲み、小さく頷いた。
「場合によっては加藤さんの警察官人生に汚点を残す可能性もあります。逮捕容疑が無実だとなれば……」
「トカゲの尻尾切りは現場と相場が決まってんだ。まあ、俺なんか階級降下食らったって、今でもやっとこ巡査部長だから高が知れてる。左遷で飛ばされるんなら、そうだ、八丈島なんかいいかもな」
「なんでしたら、私も一緒に行きますよ」
「駄目だよ、俺には」
「最愛の妻と」
「そ、可愛い子供が居るから、色仕掛けは勘弁だぜ」
二人は互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべた。しかし、その笑みには物悲しさが漂っていた。加藤がポツリと言った。
「俺が乗せられ易いのは、死んだ親父に似たからだな……」
加藤はその晩、久し振りに痛飲した。