迷宮の魂
「課長、センターから通報で、人質を捕っての立て篭もりだそうです」
「何処だ」
「春採です」
「詳しい状況は?」
「はい、どうも、最近駅周辺に出没してた浮浪者で、前にも何度か住民から苦情の通報があった奴みたいです」
「何!そいつは去年うちの小野田が暴行で引っ張った奴じゃないか!」
110番センターから通報を受けた釧路署は、その内容を耳にして驚愕した。
「警邏隊は!?」
「PC(パトカー)が一台向かってます」
「直ぐに全署員に出動準備をさせろ!」
「はい!」
今朝早く、警視庁からの連絡で、去年、管内で逮捕拘留した前田健一と名乗る浮浪者が、実は全国指名手配されている佐多和也であると判った。
今日明日にでも、本庁から捜査員がやってくるという状況下であったのだ。
朝の署長訓示の際にも、管内に佐多和也潜伏中という話があったばかりである。
「目立つ浮浪者を何で警邏の連中は見つけられなかったんだ!」
報告を受けたばかりの課長は、今にもデスクの上の書類を投げんばかりに怒声を吐き散らしていた。
現場に真っ先に向かった警邏隊成田誠吾巡査長は、パトカーの運転をしている同僚の五十嵐巡査に、
「立て篭もり犯は、佐多だと本部から連絡が入ったぞ」
と言った。
「こりゃあ大捕り物ですね」
「ああ。現場に着いても、応援が来るまで、下手に動くなとの命令だ。余計な刺激を与えて、人質に何かあってはならん」
二人が乗ったパトカーは、非常灯を点滅させながら、バス停横に停車した。
犯人が立て篭もる家は、目と鼻の先だ。