迷宮の魂
釧路署内にある道場に、全捜査員が集合した。皆、管内始まって以来の大事件に遭遇した事で、極度の緊張状態となっている。
非番の署員も非常招集が掛けられ、その中に小野田巡査も居た。
彼は、一度佐多と思われる浮浪者と接している。
やっぱり、あいつはとんでもない犯罪者だったんだ。
あの時に、もっと奴を調べていれば……
まるで自分の責任であるかのように、小野田巡査は気が高ぶっていた。
「全捜査員に告ぐ!現在、河村守さん宅に立て篭もっていると見られる容疑者は、警視庁からの照会で指名手配中の佐多和也である事が判明した。
尚、佐多は、殺人の犯歴もあり、今回の指名手配も都内で起きた殺人事件によるものである。
人質の安否が確認出来次第、強攻か、説得かの判断を下すが、いずれにしても、凶悪犯である事は間違い無く、状況によっては拳銃の使用を許可する。
その際の判断は、人質の身に危険が及び、緊急を要するか、何らかの凶器をもって抵抗して来た場合など、各自の判断で発砲しても構わない。以上!」
「それでは、各自、携行の拳銃確認を行います」
その場に居る誰もが、唇を強く噛み、緊張と凶悪犯に対する憎しみを溢れさせていた。
「拳銃、確認!」
道場に号令が響く。
小野田巡査は自分の拳銃を抜き、肩の高さまで上げてから安全装置を確かめた。
「弾倉、確認!」
右手に持ったニューナンブ38口径の回転式弾倉を左側に外した。
五発装填出来る弾倉に、通常、弾は四発だけ装填する。理由は、暴発防止である。弾の込められていない部分を撃鉄の箇所にさせておくと、弾倉は撃鉄で引っ掛かり、回転しない。
「装填!」
一旦、弾倉から抜いた4発の弾に異常が無いかどうかを確かめ、再び装填する。
小野田巡査は指が震えて弾を取り落としそうになった。
「小野田、落ち着け」
横に居た先輩の巡査が、低い声でそっと囁いた。