迷宮の魂
羽田発の便で釧路空港に到着した三山と加藤を待っていたのは、二人が予想もしていなかった事件の発生であった。
出迎えた釧路署員が言うには、佐多和也が人質を捕って立て篭もっているという。
あの、馬鹿野郎が!と加藤は吐き捨てた。
「詳しい経緯は、署の方に行かないと判りませんが、先程、全署員を現場に急行させました」
「怪我人は?」
「まだ確認されていません」
「どれ位前からですか?」
「110番通報があったのが、午後6時17分。約30分位経っています」
「とにかく急ぎましょう」
「署じゃねえぞ、真っ直ぐ現場に直行だ!」
加藤が狭い車中で、身体を目一杯小さくしながら怒鳴った。
空港からは、非常灯を回しながら急行したが、昨日の雪が路面を凍らせていたから思うようにスピードが出せない。
三山と加藤は現場に向かう間、ずっと押し黙っていた。
出迎えた署員が、事のあらましを話してくれてたが、内容は殆どはっきりとした事が判らず、要領を得なかった。
15分以上掛かって漸く到着すると、現場は騒然としていた。
滅多に見られない大捕り物を見ようと、集まって来た野次馬を必死に整理する署員。
佐多が立て篭もる民家の周辺住民を避難誘導する署員。
物陰や、警察車両の陰から様子を窺う機動隊員達。
誰もが固唾を呑んで、どう変化するか判らない状況を見守っていた。
三山と加藤は、揃って現場指揮官の処へ行った。
二人が名前を告げると、現場指揮官は、あからさまにお前等には用は無いという態度を見せた。
「間もなく、北海道警の応援も来ますから、車の中にでも居て下さい」
「なんだと」
「加藤さん、行きましょ」
現場指揮官に食って掛かろうとする加藤を宥め、腕を引っ張って行った。