迷宮の魂
無数の赤色灯が家の周りを囲んだ。
尚美は、単なる泥棒を捕まえるのにしては、警察官が多過ぎると感じ、不安を募らせた。
すると、騒ぎを聞きつけた二階から、祖父と祖母が下りて来た。
階段の半分位の処で、血だらけで見るも恐ろしげな浮浪者を見てしまったものだから、二人はその場で腰を抜かしたかのように座り込んでしまった。
気丈な祖父は、それでも祖母を後ろ手に庇いながら、浮浪者を睨んだ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、大丈夫、違うから心配しないで」
尚美がそう言うのと同時に、祖母が悲鳴を上げた。
「た、た、助けてえ!殺されるぅ!」
尚美は慌てて二人を二階へ押し上げた。
「大丈夫だから、何もしてないわよ」
尚美が幾ら宥めても、祖母は喚き散らすばかりだった。
台所で物音がしたので、今度は下に下りてみると、男が裏の勝手口の鍵を開けようとしていた。
「おじさん、な、何をしたの?」
その時、外の方から拡声器のようなもので、
(佐多!抵抗せずに、おとなしく出て来なさい!)
男はビクッとし、怯えるような目をした。
(そこに居るのは、佐多和也だな!周りは囲まれいてる。もう逃げられないぞ!人質を解放して、出て来なさい!)
「人質って?」
尚美は、それが自分達の事だとは直ぐに気付かなかったが、呼び掛けて来る拡声器の声で、自分達が人質にされたと勘違いされた事が判った。
「違います!違うんです!」
叫びながら外に出ようとした尚美に、
「無駄だ。そう思われても仕方無いんだ」
男は苦しそうな声で言った。