迷宮の魂
家の中から悲鳴が聞こえた時、三山と加藤は現場指揮官から離れ、裏側に回っていた。
「まさか……」
加藤が悲鳴に反応してそう言うと、
「私達も、もっと近くに行きましょう」
と、三山がジュラルミンの林の間を縫うように走り出した。
「強攻突破なんかにならなきゃいいが」
「さっき、署の方で彼のお母さんを呼びに行ったと、無線が入っていたわ」
「おふくろさんが来て、それで説得に応じてくれればな……」
「それより加藤さん、この家の表札、見た?」
「表札は見てないが、河村って家だとは聞いたぞ」
「思い出して」
「思い出すって……」
加藤は油断無く、佐多が立て篭もる家の方に目をやりながら、考えた。
「もったいぶらないで、早く教えてくれ」
「河村智恵美」
「河村?」
「吉祥寺の変死した女性の名前。離婚した後だから、元の山本に戻っていたけど、結婚していた時は河村よ」
「そうだった……しかし、なんでまた」
「それは、本人に聞いてみないと。その為にも、彼を説得して無事に逮捕して上げなくちゃ」
「判っている。いざとなったら、周りの奴等を薙ぎ倒してでもあいつにワッパを掛けてやるさ」
加藤の声が聞こえたのか、前の方に居た釧路署員が睨み付けて来た。