迷宮の魂
三山と加藤は、彼の証言を裏付けるべく、それまでの捜査資料を再度精査し、検察庁へ提出する事を上申した。
その事から、佐多和也の取調べから二人は外され、事件との関わりを断ち切られた。
捜査本部内には、佐多犯人説で押し通す空気があった為、結局は津田遥殺害容疑で書類送検された。
裁判は、一回目から世間の注目を集める形となった。
本来、検察側に組する筈の警察官が、弁護側の証人として出廷し、証言するという事も、その理由の一つになった。
三山と加藤は、自らの意思で佐多弁護に回ったのである。
三山達が提出した科捜研や検死医の見解を検察側は、推測の域を出ないものと全面否定し、高瀬亮司真犯人説には何ら信憑性が無いものと見なした。
裁判当初、佐多和也を凶悪な殺人鬼というイメージで報道していたマスコミの煽りを受け、世間一般も同様の見方をしていたのだが、裁判が進むにつれ、徐々にその見方が変わって行った。
その要因の一つに、笠松朋美の証言も上げられるであろう。
「この人が、たとえ本当に人を殺したのであるにしても、私と娘にとっては、命の恩人に違いはありません。人を何人も殺してしまうような方が、自分の命を投げ打ってまで火の中に飛び込んでくれるでしょうか」
この言葉には、裁判員達の心情を揺さぶるだけのものがあった。
津田遥殺害事件発生から12年と4ヶ月。
裁判は一応の結論を出したものの、事件そのものに於ける真相は、完全に解明された訳では無かった。
被告本人にも、その真相というものが判らずに終わった。
そして、出された判決は……。