迷宮の魂
「そうですか。私もその場に立会いたかったが、この通りの身体になってしまっては」
ベッドに半身を起こし、痩せ細った身体を大儀そうに支える前嶋に、
「四十年分の疲れをこの際ゆっくりと、取って頂いて又お元気な姿を見せて下さい」
「ありがとう。まあ、僕等の年代は、みんな定年までがむしゃらに働いて、辞めた途端にぽっくり、というのが多いからね。私なんかも仕事人間だったから、現場から離れてしまうと気が抜けてぽっくりのくちだろう」
「縁起でもない」
「それより、彼の事を」
「はい」
三山は、その日の午前中にあった裁判の結果を話し始めた。
「弁護側の主張が全て通りました」
「そうですか」
「釧路での事件も、河村尚美の証言で、無罪に」
「うん」
「検察側は、今のところ、控訴するかどうかを検討中との事です」
「彼は元気そうでしたか?」
「裁判中の時よりは、心なしか足取りもしっかりしていたように見受けられましたが」
「それは良かった……」
「彼は……佐多和也は、この後どうなっていくのでしょう」
「それは、月並みな言い方ですが、彼次第でしょう。大きなものを背負っているのは、今も変わらないですし、それは死ぬまで背負い続けて行かなければならないものです。
途中で放り捨てる訳にはいかないものなんだ。彼は、ずっと、逃げ続けて来たからな……」
「逃げずに立ち向かっていたとしたら、佐多の人生も随分と変わっていたのでしょうね」
「彼に限らず、罪を犯してしまう人間というのは、そうなってしまった理由を人生や運命を呪う事で、しょうがないじゃないかと、責任をおっ被せてしまうんですな。
彼が、再び社会に戻って来た時には、余程の強い意志を持っていないと。恐らく、これまで以上の困難が待っているでしょうから、はっきり言って、難しいかも知れない。
だが、私達は信じて上げなければいけない。信じて上げる心を失ってはいけない……」