迷宮の魂

 病院を出ると、丁度、修学旅行なのか、一目で地方の学生だなと判る集団に出会った。

 中学生だろうか。

 東京という初めて見る大都会の景色に、彼等は皆、好奇心旺盛な眼差しを四方に向け、輝かせている。

 身体中から、未来への希望というものを感じさせる位に、きらきらと眩しいものが発散されていた。

 佐多和也にも、ああいう時代があっただろうに。

 何処でどうそれが変わり、失われ、絶望としか言いようの無い人生になってしまったのだろうか。

 過去は取り戻せない。

 今日、この日から、人間は新たな道を切り開き、前に進んで行かねばならないのだ。

 背負ってしまった業は、放り出してしまう事が出来ない。

 今日の判決で、佐多和也の一連の事件は一応の解決をみた。

 一年前、警察官に撃たれた傷は、幸いにも急所を外れたから、一命を取り止めた。

 あの時、佐多は包丁で自ら命を絶とうとした。銃で撃たれた直後、彼は、

「自分で死ぬ事も出来ない……」

 と言ったという。

 怪我が回復した後、彼の気持ちにどういう変化があったかは判らないが、三山が会った時には、業を背負った人間という暗さが消えていた。

 初犯の時の仮釈放取り消し分があったので、今の彼はその分の懲役を務めている。

 検察側の控訴と、逆転有罪という事にならなければ、後一年余りで出所して来る。

 気安く頑張ってね、などとは言えないが、前嶋が言っていた、

「信じて上げなければならない」

 という気持ちを、三山も持ち続けていたいと思った。

 バイブレーターにしていた携帯電話が、胸のポケットで震えた。

(俺だ。今夜、お疲れさんで一杯やらないか)

「加藤さんと二人だけでですか?」

(なんだよ、千葉の山奥に飛ばされた、しがないおまわりと一緒だと、キャリア様は不服なのか)

 重く垂れ込めたような心持ちが、電話から聞こえて来る声で、幾らか晴れやかになった気がした。

    

 





< 224 / 226 >

この作品をシェア

pagetop