迷宮の魂
病院を出ると、丁度、修学旅行なのか、一目で地方の学生だなと判る集団に出会った。
中学生だろうか。
東京という初めて見る大都会の景色に、彼等は皆、好奇心旺盛な眼差しを四方に向け、輝かせている。
身体中から、未来への希望というものを感じさせる位に、きらきらと眩しいものが発散されていた。
佐多和也にも、ああいう時代があっただろうに。
何処でどうそれが変わり、失われ、絶望としか言いようの無い人生になってしまったのだろうか。
過去は取り戻せない。
今日、この日から、人間は新たな道を切り開き、前に進んで行かねばならないのだ。
背負ってしまった業は、放り出してしまう事が出来ない。
今日の判決で、佐多和也の一連の事件は一応の解決をみた。
一年前、警察官に撃たれた傷は、幸いにも急所を外れたから、一命を取り止めた。
あの時、佐多は包丁で自ら命を絶とうとした。銃で撃たれた直後、彼は、
「自分で死ぬ事も出来ない……」
と言ったという。
怪我が回復した後、彼の気持ちにどういう変化があったかは判らないが、三山が会った時には、業を背負った人間という暗さが消えていた。
初犯の時の仮釈放取り消し分があったので、今の彼はその分の懲役を務めている。
検察側の控訴と、逆転有罪という事にならなければ、後一年余りで出所して来る。
気安く頑張ってね、などとは言えないが、前嶋が言っていた、
「信じて上げなければならない」
という気持ちを、三山も持ち続けていたいと思った。
バイブレーターにしていた携帯電話が、胸のポケットで震えた。
(俺だ。今夜、お疲れさんで一杯やらないか)
「加藤さんと二人だけでですか?」
(なんだよ、千葉の山奥に飛ばされた、しがないおまわりと一緒だと、キャリア様は不服なのか)
重く垂れ込めたような心持ちが、電話から聞こえて来る声で、幾らか晴れやかになった気がした。