迷宮の魂

それを見た加藤が察して、

「争った跡が無いですよね」

「顔見知りの犯行かもな」

「きれいな現場で新人刑事さんには助かったな」

 加藤は三山をからかうような言い方で声を掛けた。三山はムッとした表情で加藤を無視し、

「第一発見者の隣人に詳しい話を聴いて来ます」

 そう言って部屋を出て行った。

「加藤君、女とはいえ彼女も一課の端くれだ。キャリア組で君も扱いづらいだろうが、普通の新人さんを扱うように目を掛けてやれよ」

「そう言いますが、ハードな一課の現場に女はそぐわないですよ。ぽっと出の女が俺より階級が上で、キャップと同じだなんて。交通課辺りでお茶でも淹れてりゃいいんですよ」

 前嶋は苦笑いを浮かべながら、現場の間取りや状況を手帳にメモして行き、遺留品を調べ始めた。加藤刑事は鑑識の写真係に指示を出し、被害者の写真を撮っている。

 室内は争った形跡が一切無い。争う間もなく刺し殺されたにしても、現場は余りにもきれい過ぎる。寝ている所を襲われたという事も考えられるが、着衣の状態や、室内の状況から考えると、果たしてどうであろうか。

 室内の遺留品を調べてみると、金目の物が殆ど見当たらなかった。

 バック、財布、貴金属等に現金。これらが見当たらないという事は、容疑者が持って行ったと考えられる。それと、被害者小野美幸の身許を証明出来る物が一点も出て来なかった。


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